第69章 もう戻って来ないと、中野家の女主人の座が替わっちゃうよ

退勤後の夜、中尾美希は中野航平と連れ立って中野家へ戻った。

周囲の目には、いかにも「一緒に帰ってきた二人」に映っただろう。

「中野社長……蓮くんがもう泣き止んでるなら、栞さんのこと、これ以上聞かないであげてもらえませんか。蓮くんが、また……」

航平が二階へ上がろうとしたところで、美希がためらいがちに呼び止めた。蓮がまた泣いてしまって、食欲まで落ちたら――そんなふうに心配している顔だ。

「分かった」

本当は聞くつもりだった。だが一度頭の中で整理して、蓮の機嫌が良い時に改めて聞こう、と航平は決める。

美希は穏やかに微笑んだ。

航平は、彼女が鏡の前で何度も練習したその笑みだとは気づか...

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